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李登輝
「武士道」解題
ノーブレス・オブリージュとは

ガイド

書誌

author李登輝
publisher小学館
year2003
price1700+tax
isbn4-09-387370-4

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2003.08.06読了
2016.08.17公開

相当の昔に読んでそのままにしてあった本で、学生時代の友人に薦められて読んだ一冊。李登輝が日本びいきなのは有名だが、本書は書名の通り新渡戸稲造の『武士道』を現在において読み直し、no-bless o-blige (高い身分に伴う義務、金持ちや身分の高いものは、そうでない人々を助けなければならない)に基づく考え方が全体を貫いている。こういう考え方は中世の騎士道などにも通じると思われ、高い倫理観の理念は立派であり同感であるが、一方で弱者から見れば与えられる恩恵・施しという一面があるのも事実である。

ちょうど最近、中西正司・上野千鶴子『当事者主権』岩波新書を読んで大いに共感した。これは逆にこれまで弱者・マイノリティとされてきた「当事者」が、自分のことは自分で決める、社会の基準を具体性のない曖昧な「平均」ではなく、マイノリティの側に合わせる、ということを主張した本で非常にスリリングな本である。

李登輝は自身が為政者の側であったため、自らを律するという意味でも、こういう倫理観を持ったのだろうが、後者の本もぜひ併せて読んでみてほしいと思った。

抄録

9

しかるに、まことに残念なことには、一九四五年(昭和二十年)八月十五日以降の日本においては、そのような「大和魂」や「武士道」といった、日本・日本人特有の指導理念や道徳規範が、根底から否定され、足蹴にされ続けてきたのです。

19/20

そして、戦後、台湾に戻ってからも、新渡戸先生をはじめとする日本の大先達たちが、いかに真剣かつ真摯に台湾の経済的自立のために献身的な努力を捧げてくださっていたかが痛いほどよくわかり、本当に日本文化のもとで基本的な教育や教養を受けてきて良かったなぁ、としみじみ思い返したものです。-/-

私が初めて『武士道』という本に出会ったのは旧制の台北高等学校のころですが、最も尊敬する新渡戸稲造先生の生き方とも相俟(ま)って、まさに雷に打たれたような衝撃を受けたものです。

22 cf.23

要するに、「伝統」と「進歩」という一見相反するかのように見える二つの概念を、いかに止揚(アウフヘーベン、aufheben)すべきかという問題にも帰するわけですが,「進歩」を重視するあまり「伝統」を軽んずるというようなに者択一的な生き方は愚の骨頂だと思うのです。-/-